自然は眠らないーあなたはナースロッグという言葉を知っていますか?

森の中で老木となって朽ちていく樹は、ナースロッグ(Nurse Log)と呼ばれているそうです。それは風倒木となり、みずからの体で他の生命を生かしていく資源になるから。つまりこれらの老木は、森の多様な生命を育み看護していくという意味で、Nurseと呼ばれているのです。すばらしい命名ですね!

・・・ところがここに紹介した大樹の写真は、人間たちの政争の犠牲となって破壊され燃やされた1000年以上の樹齢をもつバニヤンの大樹。今、あらゆる自然は、人間の内からと外からの蛮行に慄いています。人間こそ、宇宙の中で、ナースロッグ Nurse Log の存在として生きねばならぬのに・・・・・・・・。



Nurse Log】 開高 健 「河は眠らない」より

森を歩いているとよくわかるんですけれども、
斧が入ったことがない、
人が入ったことがない森、
というのがそこらじゅうにいっぱいある。
それで土が露出していないで、
シダやらなんかに覆われていますが、
草とも苔ともつかないもので森の床全部が覆われている。
それから風倒木が倒れてたおれっぱなしになっている。
これが実は無駄なように見えて実に貴重な資源なのであって、
風倒木がたおれっぱなしになっていると、
そこに苔が生える、
微生物が繁殖する、
バクテリアが繁殖する、
土を豊かにする、
小虫がやってくる。
その小虫を捕まえるためにネズミやなんかがやってくる、
そのネズミを食べるためにまたワシやなんかの鳥もやってくる、
森にお湿りを与える、
乾かない。
そのことが河を豊かにする。
ともう全てがつながりあっている。

だからあの風倒木のことを、
森を看護しているんだ、
看護婦の役割をしているんだ。
というのでナースログ(nurse-log)というんですけれども、
自然に無駄なものは何もない、
というひとつの例なんです。

そうすると人間にとってナースログとは何でしょうか?
無駄なように見えるけれども実は大変に貴重なもの、
というものも人間にはたくさんあるんじゃないか?
それぞれの人にとってのナースログとは何か?

無駄をおそれてはいけないし、
無駄を軽蔑してはいけない。
何が無駄で何が無駄でないかはわからないんだ。

ここがひとつの目の付け所ですね、これは大事なことですよ。
無駄なことしてると思うことはないんであって、
いつかどこかでまた別のかたちで甦っているのかもしれないんだ。

このバニヤンの巨樹は、2004年、政争によって燃やされ破壊された。