新宿に開園した人間動物園(にんげんどうぶつえん)

「みなさん!この動物園はほんとうの動物園です。ほんとうの動物園ですから、ほんとうの動物が入っています。このごろの流行のように、立体映像を立体コピーして、結局なにがなんだかわからなくなったような動物園のたぐいではありません。オリジナルの性格をもった正真正銘の生(なま)の動物が、この動物園には入っているのです。これは超感動です。」

テレビ中継車の前で若い男性アナウンサーが、今までの動物園がいかにも虚妄でもあったかのように、自分がさし示す動物園を紹介しながら、大声を出してしゃべり始めました。日曜日の動物園は、たくさんの家族連れや見物客でにぎわっていました。

「みなさん!こんにちわ!これが本日、新宿に開園した人間動物園です。みなさんは動物園の中に何が入っていれば、いったい満足でしょうか?象にカバにキリンにパンダ、オットセイ、ウサギにカメレオン、そしてひとこぶラクダに 二(ふた)こぶラクダ・・・三(み)こぶラクダに四(よ)こぶラクダ・・・・・はい。このごろはどんな動物も遺伝子操作で作れるようになりましたね。首のやや短いキリンやダエットに成功したスリムなカバだって簡単に造れるんですからね。

しかしこの動物園にいるのは、そうした普通の何百何千の動物の種ではなくて、そうです。この世で最も賢くて、最も嘘つきで、そうそう・・・最も残忍で、最もやさしい・・信じられないほど多くの種類の他の動物を地球上から駆逐(くちく)してしまった猛獣の中の猛獣・・・・・・・そうです。そうです。もうおわかりですね。皆さん、動物園の売店で、手鏡を買って、自分の顔をよおく映し出してみてください。そうです。この地球で、最高最悪の動物は、手鏡に映し出されたワレワレーヒトです。人間です。学名はホモ・サピエンスHomo sapiensといいます。
自然界の生き物で、なにが一番恐ろしいですか?

「毒蛇?ライオン?それともゴリラ?人食いざめ?・・・いえいえ自然界の動物の恐ろしさなんて、人間の恐ろしさに比べれば、とても恐ろしさとは言えません。・・・・・人間はまず動物界に属し、脊椎動物門で、哺乳綱で、霊長目で、真猿亜目で、狭鼻下目で、ヒト上科で、ヒト科で、ヒト属で、ヒト種に属している生物の一種です。」とろれつが回らないほど早口でしゃべった後、

「・・・・・実はみなさま、人間は動物に属するニンゲンという種について実はよくわかっていないのです。考えても見てください。ニンゲンを詳しく語るには、どんな形容詞、動詞、感嘆符を敷き詰めたところで、表現の全く不可解な実存形態で、しかもあらゆる辞書を駆使しても正確に表現できるものではありません。

人間は広大な宇宙のなかに突然変異で生まれ、今や宇宙の中で最も驚異的な存在になっていますから。そして最も「脅威的」な存在なのです。そのため今日は,最近開設したばかりの人間動物園の目玉であるニンゲンという動物を、皆さまに生態的にご紹介いたします。」

そう言って「人間動物園」をテレビに映し出した。みんなみんな興味深深。

(2へ続く)