紙漉きがもたらす教育効果


嬉しいニュースである。15年前、識字アドバーザーとしてパキスタンに赴任したとき、当地で教えた紙漉き技術が、パキスタン連邦教育局によって、小学校のカリキュラムに導入されたという知らせがあった。あああ!嬉しい知らせだ。これはもちろん紙漉き技術を教えるのに全力を傾けて活動してきた女医のアンバー・ジャハン氏などの継続的な努力によるものであるが、なぜこれほどまでに紙漉きがパキスタンに広まっていったのであろうか?そして広める必要性があったのか?1998年に開始した紙漉き技術をパキスタンで広めようと思ったのは3つの理由があった。

一番目は直接の動機ともなったが、パキスタン全国のノンフォーマル教育(寺子屋式教育)の実態視察で農村地域を廻っていたときに、子どもたちから「コピーを下さい」と要請されたことだった。最初、私はコピーの意味がよくわからなかったが、それはノートを意味しているものであることを友人から教えられた。しかし農村の子どもたちには、ノートブックは、余りにも高価だ。そこで私は紙漉きのやりかたを、サトウキビの捨てカス「バガス」を使って教えたらいいだろうと思って始めたのが直接のきっかけであった。それまでカラチやイスラマバードで売られている手漉き紙は、インドから高価で輸入されてきた。パキスタンでは作れなかったのだ。

二番目はパキスタンがもっている人間と自然のリソースに気がつくことであった。そして同時にこうした簡単な技術を通じて、パキスタンの農村の人々の自立につなげようとしたのだ。パキスタンの農村の現実は暗く、いまだに大土地所有制が数多く残存して、地主がすべての権限を奪っている。そうした厳しい現実のなかで自らのリソースに気づきながら自立への道を示唆するのは、小さなことから始めるのがいいと思ったのだ。そこでマイノリティにカラーシャの少数民族の村へ、最初に教えるkとにした。その感動の輪は弾けるように広がった。そしてパキスタン全土で教えながら、自立を求めるSAHIL(NGO児童の性的虐待を防止する会)など1500人を超える人々に、無料で講習会を行っていたのだ。日本ではなんでもないことだが、雑草やサトウキビの捨てガラやバナナの茎などから簡単に紙が作れるのは参加者を狂喜させた。

三番目には、特に小学校の子どもたちが、紙漉きを行うことによって、みずから物づくりのおもしろさを理解するということであった。そして同時にハンディをもった視覚障害の子どもたち、知的障害の子どもたち、刑務所の子どもたち、小学校・中学校の生徒や先生たちだった。そうした子どもたちに今、本格的に火がつこうとしているのだ。

こうしたワークショップを通じて、だれでも手に汗をして、ものづくりを行うことが、パキスタンで最も重要な人づくりであると思っていたのだ。世界中から多大な援助をうけて、汚職や格差が大きく存在する中で、自らの手で「手作りの紙を作って表現する活動」は、なにか重要なものを彼らに伝えていくような気がしたのだ。それが今、伝わったのだ!!これほど嬉しいニュースはあろうか。