福島の人々の運命に涙した物語ー大亀ガウディの海

大亀ガウディの海        ジャー・ヒロ


これは原発の被災地に楢葉で、放射性廃棄物を地中に埋めるために(黒ビニールの袋に入れて)、ボーリングしているところです。2013年11月 中間(最終)貯蔵地になる予定地

 
この小説には不思議な存在感がある。亀が語り、魚たちがしゃべり、そして登場する海の、空の生き物たちが言葉を発する、現実ではありえない物語なのだが、やはり心にずしんとのしかかる重力を感じてしまう。それはやはり著者、田島伸二のビキニ環礁に代表される無謀な原爆実験、水爆実験に対する恐怖、憤怒、そして生きとし生けるものたちへの深い愛情が生み出した物語だからこそ、存在感があり、重力を感じるのだろう。

 読み始めた頃には、僕にとって、あまりに突飛なこの物語についていけず、少々当惑しながら読んでいたのだが、少しずつ、どう言っていいのか、著者の怨霊にでもトリツカレタとでも言うのか、ずっぽりと物語世界に没入していった自分に、大げさに言えば、恐怖した。「青い珊瑚礁」という言葉に象徴される夢のように美しく、ありとあらゆる海の生き物たちが生を享受している大自然の清らかな海を恋し焦がれる大亀ガウディが水族館から、知恵と策略によって海に脱出してからのさまざまな出来事、エピソードは、現在深刻化を増している福島原発事故の悪夢を思い起こすものであり、どうしてもすらすらと読むことが出来ず、少し読んでは、現実の悪夢に思いを馳せ、また読み進んでは、哀れな今まで味わったことのない読書での葛藤に戸惑ったのだった。

 物語の内容に関しては詳しく語ることを避けるが、終盤の大亀ガウディの英雄的行為はいつまでも余韻となって、僕の心のなかから消えることはないだろう。そしてこれからの日本においても、ガウディのような献身的行為が無数に必要とされていくことを感じる。もし日本に明るい未来があるとしたら・・・。まったく真逆の方向に進んでいく日本の政治、大多数の国民の無知、無関心を前に、ため息まじりでそう思うのだった。多くの心ある人々に読んでもらいたい傑作です。そのことを証明するようにアジア各国で出版されています。

 そしてここで是非紹介したい言葉があります。物語の最後に書き記されたこれらのメッセージは愚かな道を歩む人類に向けた物語の中の生き物たちの声であり、著者田島伸二の心の奥底からの叫びなのです。

波の音は歌っていました

空をかえせ
海をかえせ
地をかえせ
自然をかえせ
もとあったように
自然をかえせ
すべての生き物が
住んでいる
自然をかえせ
自然をかえせ



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(大亀ガウディの海:田島伸二著:イラストレーション A、ラマチャンドラン:出版 Didigul Bell: ISBN4−9902581―0−X C0095 ¥2500E