深層心理からのコミュニケーションと表現方法について

寓話を書いたことがあります。その物語のストーリーとは、「人間は言葉と手を使って宇宙のなかで華麗なる文明を築いた。そのため他の惑星の住人が人間の言葉や両手の実態を見学にやってきた」 しかし結局、かれらが地球上で見た人間の文明とは、「言葉と両手の使い方を誤ったために、結局は憎しみや破壊や戦争の文化を築いて、終には文明が滅びてしまった。」という悲劇的な物語です。

考えてみると私たちの言葉は、使う方向性や使い方を誤ると、剣のようにひとの気持ちを切裂いてしまったり、矢のようにひとの心に突き刺さって、簡単に人の心に地獄絵図を作ることができるのです。何気なく教師の放った言葉でも、子どもたちの柔らかい胸には鋭い矢のように突き刺さってしまうことも、しかもその子どもたちの中にはその突き刺さった矢を抜こうともせずに復讐を考えたりもすることもあるのです、それは親子関係でも、友達関係でも、国際関係でもすべての面で同じようなことが言えるのです。

しかし、反対に人を生かしていく言葉は、精神的にも苦悩のなかにいる人々を国境を越えて元気づけたり、わずかの言葉でも恋愛のように人を生き生きと蘇らせていくものです。しかし現代では、言葉の本来の役割である「人と人を結ぶ大切なコミュニケーション」がだんだん忘れられているような気がするのです。機能的に陥りすぎた言葉、無感覚な言葉、仲間内だけの言葉、自分の目的だけに引っ張りたい言葉などが氾濫し、人と人との深いコミュニケーションや自分自身の表現方法についても余り関心が払われていないように思うのです。


私はこれまで30数年間、ユネスコ活動などで識字教育を行ってきましたが、それらの現場での成功例と失敗例をもとに、現在「絵地図分析」という新しい自己発見のワークショップを国内外で開催しています。それは、近年、「人の言葉を聞くこと、自分を表現できる力、あるいは文字や絵で伝える表現力の強化などさまざまなコミュニケション能力」などが、子どもたちの存在や日常から非常に希薄になり、大人を含めて「自分がどこにいるのか?どこに行こうとしているのか?いったい何をしたいのか?」といったことで大きく揺れて不安の中で自分探しを痛切に求めていることを知ったからです。




絵地図分析とは、言葉と絵とデザインを使って自分自身の内面の絵地図を作成するというもので、自分自身の顔を映し出す鏡を作り出すような作業です。その基本的な哲学は、「この地球上ではだれも自分自身に一番興味を持っている。しかし誰も自分についての生き方を真剣に教えてはくれない。」ということから出発したものです。こうした不安な時代、誰しも航海図を欲しがるものですが、それは自分自身の偽りのない欲求や現実などの問題を本音で作成していくものです。つまり自分自身の問題を把握するところからすべて始まるのですが、問題をきちんと把握することは、結局は解決に向かうことになるのです。



絵地図というのは、文章と絵とデザインを使って、心のありさまを表現しながら
心の所在のありかたを地図にするものです。とは言っても、通常の地図のように
きちんと東西南北や方角が定められるわけではありません。しかし、だれにとっ
ても、表現とは、意味がないように見えても、それはやはりその人間にとっては、
最も大切な心理地図なのです。

個人で行う「絵地図分析ー私の人生マップ」というやりかたと、グループで行う
「課題別のグループマップ」の二通りがありますが、それぞれどちらに属してやり
たいかを最初に聞きます。ワークショップは、通常3時間ぐらいかかります。

ー表現の中では、おもしろいもの、単純なもの、役にたつものが最も重要になってくる。

ーどのような表現にも、深い心理や意味が隠されている。分析できると新しい発想が生まれる。

ー言葉だけでなく絵やデザインは、人間を大きく励まし関係を創りだしてくれること。

ーだれも、よく生きるための心理的で視覚的な地図をいつも必要としている。

ー内面にある自分自身の絵地図を、人生の中では何度も塗り替えていく作業が必要。

ー悩みは抽象的に見えても、すべて具体的なものから派生する。そのため解決策は、すべて実際的で具体的なもので、アクションのための優先事項を作ること。

ー絵地図においては、絵や物語性が非常に重要なこと。人はだれしもすべて自分の納得のいく物語を作ったり持ちたい存在だから。イメージや物語によって人間は幸せになる。

ー落書き的な自由な発想の中で、自由な感性を思い切り伸ばすことは、最も楽しいこと。

ーみんなで議論しながら文章や色や線や面を分析することは、いろいろの角度から自分自身を見つめながら思考することができる。(特に学校やグループの中では)。

ー世の中で、最も関心や興味がある存在は「自分自身」というのが生物の本能。

ー人間の時間は、過去・現在・未来と三次元にわたって、関連させて分析する必要があるが未来にむけて積極的に生きる姿勢によって、過去の時間や内容は変化してくる。

ー矛盾や追い詰められた深刻な課題の中から新しい発想や解決策を生み出すことが絵地図の目的。

ー分析のしかたを学ぶとは、認識だけではなく、人生における行動のしかたを学ぶこと。
次の感想文は東京都内の学級崩壊のクラスで絵地図分析を行ったものですが、全体にまとまりのないクラスが絵地図ワークショップが始まったらみんな一生懸命に作業しました。なぜならすべて自分自身の問題や解決だからです。

これは12歳の子どもたちの感想文です。

― ぼくの絵地図ができたときに体の力がぬけてらくになった。

― 自分が今、思っていることを何でも絵地図に表そうといっしょうけんめいにやった。今まで味わったことのない感覚を体験した。自分を見つめて自分のいいところや悪いところがどんどん見えてくるような気がしてどんどん手がうごいた。とっても不思議な感覚で、自分でもどんなことをどんな風にかんじているのかが、よくわからなくなってきてしまった。でも自分自身のことをよくわかれるようになれた気もした。こんどはもっと広いはんい(範囲)のものも書いてみたいなあと思った。友達が作ったのを見て「ああ、この人はこんな人なんだ。」というのが感じられた。自分が発表するとき、みんなも「この人はこうだ。」と感じとってくれたのでとてもうれしかった。家で絵地図を見ながら深刻に考えたり笑ったりしました。とても楽しかったです。


―  最初やり始めた時は、なかなか自分の世界に入れなくて、やる気がなかったりしていたけれど、やっているうちに自分の好きな事やショックな事がうかんできて、ちょっとは自分と向き合うことができました。書いているうちに、今の自分は一体なんだろうかと思いました。家に帰ってからも全体をながめていたら、自分の目標が少ない事に気がつき、これから目標をどんどん増やしていきたいと思いました。

これは誰でもよく経験あることですが、室内から出ようとして窓ガラスに当たったハエやトンボは、ガラス窓に体当たりしてバタバタともがき苦しみ、その世界ですっかり消耗して生きることができなくなってくることがあります。しかしその場所から少し離れて自分の置かれているところを見れば、広々とした自由な空間や時間がいくらでもあり、脱出口だっていろいろあったにもかかわらず、地に落ちて希望や心を失っていくことがあります。脱出口を見つけるためには、子どもたちの状況を少し距離や余裕をおいて地図の中にあらゆる可能性を見つけて分析することです。例えば子どもたちの絵地図には「さまざまな夢や希望と同時にさまざまな欲求や不満も文章と絵によって描かれています。「学校を破壊したい。夫婦喧嘩を見たい。あの教師を追放したい。この教師に反抗したい。この世界はお金・お金・お金・・」と書き綴っている子どもたちの深層のなどの叫びに接していると、言葉の世界が現代社会の諸矛盾と複雑に絡んでいるのがわかります。こうしたことを、どのように絵地図を見ながら分析し具体的な対処のしかたを育てていくかが問題です。

絵地図分析のやり方は、まず初めに講師による氷解的で本音的な話から始まり、次いでグループ内での自由な会話が個々人の想像性を刺激します。その結果は小さな短冊に表現され、その内容の共通性に従って自分自身でカテゴリー化しながら、さまざまな過程を経て、全体を絵やデザインで絵地図風に仕上げていき、出来上がった絵地図を講師とともに自己分析しながら、つぎのアクションのための絵地図を作っていくというものです。絵地図分析における最終的な言葉とは豊かで人間的な行動を意味しています。決して信仰でもカルトでもありません。自分自身で自分自身をたくましく築いていく方法なのです。


(問合せは: iclc2001@gmail.com まで)