歴史は生きている。歴史とは人々の生き方である。

日韓両国で作る歴史研究者の研究成果が、このたびまとまったが、その労を多とする。しかしこれは3年間で終了せずにさらに継続して、次世代へ繋げていくことを提言する。

「歴史とは永遠に眠りついた事実ではない。歴史とは過去のことだけではない。現在や未来への人々の生き方であり、決意である。」刻々とその事実も解釈も環境も変化している中で、日韓の歴史研究者も、民主党の政権下で、その陣容を再構成して、さらに歴史の共同研究を続けることが重要である。「歴史は生きている。」そしてこれに人々の生きた声を常に反映させていくことが重要である。教科書とは、国から下りてくるものにあらず、人々が作りだすものであらねばならない。

このたび、韓国側が指摘した、「日本の教科書は、植民地支配に対する記述が少ない」というのは、それは事実であろう。そして日本側が指摘した「日本の憲法九条や平和主義に関する記述がない」というのも事実であろう。これらの点は具体的に教科書の中で改善されていかねばならぬが、最も重要なことは、こうした歴史の共同研究をこれで終焉せずに継続していくことである。

そしてその成果を両国が合意してわかりやすい内容で発表されることである。こうした断続的な研究がなされていくことが、両国の相互理解の基礎を形成していくものである。ヨーロッパでは、歴史の共同研究は、12か国からそれぞれ編集者を出して行ったが、それはもう20年も前のことだ。ドイツとポーランドは、徹底した相互の教科書研究を長年行った。こうした無数の試みの中で、世界各国は、頑(かたく)で硬直した歴史の事実や「人間の生き方」を再編集しなければならない

資源問題や環境問題の摩擦の中で、ますます国粋的で偏狭な考えが醸成されている厳しい環境の中で、こうした国境を越えての共同作業がますます重要になってくる。鳩山政権にこうした歴史の共同研究をさらに強化継続していくことを要請する。そしてそれは、二国間だけでなくて、日本と中国、そして日本とロシア、日本とフィリピンのように近隣諸国とも開始することが重要でないか。教科書や歴史書は、数々の独断と偏見で書かれているのが常であり憎しみや松摩擦に満ちているから・・そしてその知識で現実の社会が、限りない誤解や対立を生みだしているのだから。こうした動きを、二国間に留まらずアジアの国同士でも、アジアの隣国同士でも、地域を越えての共同研究を無数に広げていくことが望まれる。それは宗教や民族や環境問題など無数の共通の課題に直面しているからである。

東京にあるICLC国際識字文化センターは、インドとパキスタンの共同絵本製作を、10年がかりでまとめて、このたび英語を交えて10数言語で刊行することを進めている。こうした試みこそ、21世紀の人びとの理解と友情を、たくましく育てていくものである。インターネットの世界とは、無限の知識が飛び交い、オープンであるように見えて、実はその姿勢や実態とは非常に閉鎖的である。次世代に繋いでいくためにも、こうした共同研究をさらに醸成していくことが今、最も望まれている。


「戦争は、平和を作ることよりも、はるかに簡単で激情的である。」そのためにも「平和とは絶えず断続的に休みなく構築し続けなければならない。あらゆる手段を使って・・・・・」







2010年3月24日(読売新聞)
日韓、互いに教科書批判…歴史共同研究
日韓両国の歴史研究者らでつくる第2期日韓歴史共同研究委員会(共同委員長=鳥海(とりうみ)靖・東大名誉教授、趙●(チョグァン)・高麗大教授)は23日、約3年に及ぶ研究結果をまとめた報告書を公表した。

焦点となったのは、今回初めて研究対象とした歴史教科書のあり方だった。日本側は韓国の教科書について、日本の平和憲法などの記述がないと指摘する一方、韓国側は、日本の教科書は植民地支配に対する記述が不十分だと批判するなど、日韓双方の歴史認識の隔たりが教科書にも反映していることが鮮明となった。



 委員会には、日韓それぞれ17人の歴史専門家らが参加。各委員の論文が掲載された報告書は約2500ページに及んだ。研究対象は「古代」「中近世」「近現代」の各時代に、双方の教科書のあり方も加わった。韓国側は、日本の教科書で慰安婦に関する記述が減ったことなどを取り上げ、「政治、社会的状況の保守化が根本原因」だと懸念を示した。植民地時代の朝鮮半島からの強制連行や「創氏改名」をめぐる日本の教科書の記述は「簡潔でドライだ」と指摘、十分でないとの見方を示した。

日本側は韓国の教科書で平和主義を掲げる日本の憲法9条について記述がないことを取り上げ、「戦後の日本を理解するには、絶対に必要な要素だ」と主張。日韓間の過去の歴史に関する天皇陛下の「お言葉」や、1995年の村山首相談話についても記述がないとし、「明確に記述することが重要だ」と指摘した。

 日韓歴史共同研究は小泉政権金大中政権時代の2002年、歴史教科書問題をめぐる日韓間の摩擦を受けて第1期が始まり、05年に報告書を提出した。



(2010年3月23日21時32分// 読売新聞)