アンコールが鳴り止まなかったー日中韓3カ国競演のKONKICHI「楽劇」が、越谷能楽堂で上演された。

総檜で作られた能楽堂の雰囲気は、神聖にして精神的にも緊張するものがある。観客席に突き出た舞台様式は、古くから社殿などで使われており日本人の舞劇や神楽の中心にあったもの。越谷の能楽堂は、広大な庭園に面して建てられており、まだ歴史は10年ぐらいらしいが、実に美しい庭園の前にあった。

この能楽堂を舞台に、日中韓の楽劇「KONKICHI」が始まった。リズミカルでテンポの良い劉宏軍さんが率いる「天平楽府」の調べが流れると、歌舞伎役者の中村京蔵さんが、女形の衣装で舞台に艶やかに登場した。彼は女社長を歌舞伎のスタイルのままに演じた。口調は歌舞伎のままでいかにもおもしろい。コンキチ役の大倉基誠さんも狂言役者として、舞台を走り回り、そしてキツネの鳴き声で吠えに吠えた。コンキチにピッタリの配役であった。

ラッキイ池田さんは、いかにも軽やかに笑いをふりまいた。また中国からの出演者である動物の鹿役の左威さんのソプラノの美しさにはだれしも酔いしれ、そして母キツネを演じたヤン・チェンさんも能楽堂で精一杯に歌い演じた。衣装のなさが目立ったが、だれもかれも一生懸命であった。私は韓国の金オルさんのカヤグムのソロの美しさを是非とも聞きたかった。それはコンキチの叫びのベースに最もふさわしい調べだから・・・・もっとも脚本演出を担当された東龍男さんも3カ国競演の能舞台作りには、大変苦心惨憺されたようだ。そして三隅治雄先生は、監修者として絶えず叱咤激励されていた。

そして日本・アジア芸術協会を初めみんなの苦労は、十二分に報われたと思えた。舞台が閉じられた時、なんとアンコールの拍手が鳴り止まなかったのだ。嘘偽りのない感動的なアンコール。聴衆はいつまでも能楽堂から去ろうとしない。そしていつまでもこの舞台の素晴らしさを口々に話し合っていた。

越谷能楽堂の夜空には、月が出て爽やかな風が吹き渡っていた。リハーサルのときに中平順子さんが、「月は地平線にあったとき、大きな満月に見えたのに、今は随分小さくなっている」としゃべっていた。多くの方々が越谷でこの舞台に協力してくださった。面師の渡辺雄司さんも精魂を傾けて多くの面を作られ、そして多くの若者たちがこの舞台を表で裏で支え続けた。こうした総結集が大きな感動を生み出した根源であろう。

とにかく越谷での初日の楽劇「KONKICHI」の一夜は、だれにとっても忘られない思い出でとなった。劉宏軍さん、カン・ウー・ヒョンさん、黒川妙子さん、本当にありがとう!この日本・中国・韓国の3カ国の友人たちが、がっちりと友情で結ばれていたからこそ、こうやって形になってきたのだ。劉宏軍さんにとっては、楽劇という新しいジャンルを生み出した偉大な夜でもあった。ヨーロッパのものではなく、東洋の伝統に基づいた物語と音楽を基盤にした「楽劇」の誕生であった。嬉しい夜であった。そして10月28日の渋谷での本番ともいうべき昼夜2回の公演に向けて、別れを惜しんだのであった。    (越谷能楽堂での観劇ーたじましんじ)


サンケイコム
日中韓の舞台人が“新狂言
2008.10.28 08:10
このニュースのトピックス:伝統芸能
 大蔵流の若手狂言師、大蔵基誠(もとなり)を中心にした2つの公演が東京・渋谷のセルリアンタワー能楽堂で行われる。きょう28日は、日中韓の舞台人による楽劇「KONKICHI」。また、11月7日は、狂言「第3回大蔵基誠のさくっと狂言」。古典芸能、狂言の醍醐味(だいごみ)が新旧の異なる手法で表現される。 「KONKICHI」は海外でも広く親しまれている田島伸二の原作を3カ国の音楽でアレンジしながら上演する。主人公のキツネ「コンキチ」を基誠が演じ、歌舞伎の中村京蔵振付家ラッキィ池田らが加わる。人間社会で生きることを決心したコンキチは、住み慣れた森を離れ、毛皮会社に就職する。最高級の毛皮を求める仕事を引き受けたコンキチが見たものとは。自然を破壊してきた人間の姿が、能楽堂の厳かな舞台の上でコメディー(狂言)タッチで描かれていく。「ぼくは狂言のゆるやかな動きで、ラッキィさんは激しく動く。玉手箱をひっくり返したような舞台になりそうですが、狂言(の本質)は無くしたくない」と基誠は話す。音楽家の劉宏軍が総指揮をとり、中国の京劇俳優らが参加する。東龍男の脚本、作詞、演出。午後3時、7時開演の2回。問い合わせは(電)03・6638・6454。また、大蔵流の若手狂言師による「第3回大蔵基誠のさくっと狂言」では、古典の狂言「昆布売(こぶうり)」と「水掛聟(みずかけむこ)」の古典2曲を上演する。問い合わせはアガルタ(電)03・3408・2248。(生田誠



朝日コム(埼玉)
キツネの寓話で共生を問う舞台
2008年10月16日

◇あす、越谷で上演
人間に変身したキツネを通じて自然に対する人間のあり方を問う寓話(ぐうわ)「コンキチ」(田島伸二原作)が17日、越谷市の日本文化伝承の館「こしがや能楽堂」で楽劇『KONKICHI』として上演される。音楽は日本・中国・韓国3カ国の伝統楽器で編成された楽団の生演奏だ。「コンキチ」は、呪文を使って人間に変身したキツネが毛皮会社の社員となり、やがて銃を手に故郷の森に入っていく姿を通し、動物と人間の共生の大切さを描いた作品だ。舞台では狂言や歌舞伎に加え、中国の京劇や韓国の面も登場。音楽も、日・中・韓の伝統楽器で編成されるオーケストラ「天平楽府(てんぴょうがくふ)」が担当する。同楽団を率いる劉宏軍さん(62)=東京都足立区=は「伝統文化による舞台と言っても、原作は子ども向けの童話だから、誰が見ても退屈しないと思います」と話す。
主催するNPO法人日本・アジア芸術協会(東京・銀座)は「アジアの隣国と一緒に新しい形の舞台を作り上げたかった。芸術で手をつなぐことが出来ればうれしい」と話している。