福島原発を調査した民間事故調査委員会がやり残している最大の課題

福島原発を調査していた民間事故調査委員会の報告が発表された。東電は聴取を拒否したという。これは東電に対する刑事責任の訴追を厳格に行わなければ真実の究明は不可能であることを意味している。この報告の中で指摘されている政府の対応には大きな問題があったのはむろんだが、3.11以降の政府対応について一切の議事録をとっていなかったということの責任を、事故調は早急に明らかにする必要がある。そして東電の3.11の原発事故における有責性のプロセスを明らかにすることも緊急な課題である。「いったいなにが起きていたのか」ということだ。
東電から聴取を拒否されたというが、事故調査委員会は、事故の主体者の聴取を行わずにどうやって事実や正確さを期すというのか?

特に原発の現場で指揮をとった東電の吉田所長からの詳細な聴取が欠けているとすれば、この事故調とはいったいなにをやろうとしたのか?政府の大失策であり、不手際であるのは既に明白なことであったが、東電を厳しく追求しないマスコミ、政府、そして国民の意識とはいったいいかなる存在なのか?こうやって事故を明らかにしないうちに、日本は再び巨大な災害に襲われてなにもかも忘却のかなたへ押しやろうというのであろうか? 大至急、退任した吉田所長にも委員会は、聴取を開始すべきである。病床にあるとはいうが、闇に葬られては困るのである。日本国民の運命がかかっている。

特に、議事録を役人がとっていなかったということは絶対にありえないことだ。これは官僚たちが、政権から命令を受けて、ことごとく資料を隠蔽しているというのが正しいだろう。どんなに緊急時であろうと政府の委員会が開かれると、必ず決定事項やアクション事項については詳細な議事録をとるのが役人の最低限の義務であり、必ず議事録がとられているのである。当時のことを記したノートを官僚の各自が持っているのは当然のことだ。これを明らかにすることは事故調査員会の最大で緊急の責任である。


今回の事故調の調査は、「官邸の原発対応」だけに集中しており、菅首相の無能さやシステムの欠如にすべてを帰そうとする魂胆が明らかに見える。しかし原発事故を起こした東電そのものは全く聴取もせずに、またその聴取できなかったことの重大な意味や責任を国民に明らかにすることなく報告を行なっている。これは余りにも無能で無責任と言わざるを得ない。民間の独立した調査委員会だとしても、今回のような事態においては、法律に基づいて設置された国会の事故調のように証人喚問ができる強い権限をもつべきである。アメリカのように厳格な調査を独立的に全面的に行うべきである。こうしたことが可能でない甘い日本の民間調では正確なことはなにもできない。せいぜいマスコミや評論家よろしく首相や官邸の対応を「泥縄的危機管理」といってただ糾弾するだけで、そこには原発事故に対する真摯な事故調は存在しない。

これは刑事的な訴追をともなったもので厳格な意味での原因の究明が行われなければならない。そこには当然、政治家や官僚の訴追も対象に入っており、「みんなで渡れば怖くない」というような全員無罪の釈明を決して許してはならない。「原発の実態を知らなかったでは決してすまされない。」、「SPEEDIなどを全く知らなかった官邸、官僚、経産大臣は法廷で、その責任をとらなければならない。それを行えるのは新しい日本国民であることを意味しており、新しい政治家の出現でもある。日本は生まれ変わらなければならない。


事故調は、現在のメンバーにさらに有能で創造的な専門家を多数を加え、初心に帰って報告書を作成すべきである。まだわずか2割しか報告内容は見えていないと思う。このようなアマチュア的な報告書で、史上に例を見ない原発災害を報告できたと思ったら大間違い。まだ全く報告できていない8割もの重大な内容の究明にを早急にあたるべし!!そのうちの5割は東電に関する厳密な調査と聴取を意味し、残りの1割とはアメリカとのやり取りの内容、特に原発の原子炉などの設計はすべてアメリカ製であるだけにアメリカの対応は非常に重要だ。またあと1割はマスコミの報道について、こうした非常時にどうやって客観的な報道をすることができるか?それについての厳密な聴取も必要である。またあとの1割は、原発事故における国民の意識の究明であるが、それには原発事故に遭遇した地元の人々からの聴取などさまざまな意見を調査することが、早急に重要なのである。これらは国民の声である。


この意味において今回の事故調の報告書は、まだ2割しか為すべき仕事を行なっていないのである。事故調はあと半年をかけて残りの8割をクリアーせよ!そうでないととても独立委員会とは呼ばれまい。




報告書の主な内容について

(1) 官邸の初動対応を「無用な混乱やストレスにより状況を悪化させるリスクを高めた。場当たり的で、泥縄的な危機管理

(2) 官邸主導で手配された電源車が、コードをつなげず現地で役に立たなかった。

(3) 「ベント」が遅れたことについては、東電が現地の住民避難の完了を待っていたことや電源喪失が原因だった

(4) 官邸の中断要請に従っていれば、作業が遅延した可能性がある危険な状況だった

(5) 首相が強く自身の意見を主張する傾向」が班目(まだらめ)春樹原子力安全委員長や閣僚らの反論を「躊躇(ちゅうちょ)」させたとの認識も示した。

(6) 「トップリーダーの強い自己主張は、物事を決断し実行するための効果という正の面、関係者を萎縮させるなど心理的抑制効果という負の面

(7) 緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)の運用や結果の公表を巡り、文部科学省原子力安全委員会に役割分担させるなど責任回避

(8) 首相官邸の現場介入によって、1号機のベント(排気)などで無用の混乱を招き、事故の悪化リスクを高めた可能性。
(9) 介入の背景は、マニュアルの想定不備や官邸の認識不足
(10) 東電や保安院への不信感
(11) 被害拡大の危機感
(12) 菅直人前首相の政治手腕など
(13) 01年の米同時多発テロを教訓にした新たな規制内容を未反映あった

その他






福島第1原発:官邸初動対応が混乱の要因 

民間事故調報告


 東京電力福島第1原発事故を調査してきた民間の「福島原発事故独立検証委員会民間事故調)」(北沢宏一委員長)は27日、菅直人首相(事故発生当時)ら官邸の初動対応を「無用な混乱やストレスにより状況を悪化させるリスクを高めた。場当たり的で、泥縄的な危機管理」と指摘する報告書をまとめた。官邸の指示が事故の拡大防止にほとんど貢献しなかったと総括。緊急事態の際の政府トップによる現場への介入を戒めた。

 民間事故調は、科学者や法曹関係者ら6人の有識者が委員を務め、昨年の9月から調査していた。東電側は聴取を拒否した。

 報告書によると、原発のすべての電源が失われた際、官邸主導で手配された電源車が、コードをつなげず現地で役に立たなかった。枝野幸男官房長官(同)は「東電への不信はそれぐらいから始まっている」と、事故当日から東電への不信感が政府側に生まれていたと証言。報告書はこうした不信感が、官邸の現場への介入の一因になったと分析した。

 原子炉格納容器の圧力を下げるため気体を外に出す「ベント」が遅れたことについては、東電が現地の住民避難の完了を待っていたことや電源喪失が原因だったと指摘。「官邸の決定や経済産業相の命令、首相の要請がベントの早期実現に役立ったと認められる点はなかった」とした。

 1号機への海水注入では、12日午後6時ごろの会議で、注入による再臨界の可能性を菅氏が「強い調子」で問いただし、再検討を指示していた。海水注入は既に午後7時4分に始まっており、第1原発吉田昌郎所長(同)は官邸と東電本店の中断指示を無視し注入を続けた。報告書は「官邸の中断要請に従っていれば、作業が遅延した可能性がある危険な状況だった」との見方を示した。同時に、吉田氏の行動についても「官邸及び東電本店の意向に明確に反する対応を現場が行ったことは、危機管理上の重大なリスクを含む問題」と批判した。

 一方、菅氏が昨年3月15日に東電に「(福島第1原発からの)撤退なんてありえませんよ」と、第1原発にとどまるように強く求めたことについては、「結果的に東電に強い覚悟を迫った」と評価した。

 また、菅氏の官邸での指揮に関し「強く自身の意見を主張する傾向」が班目(まだらめ)春樹原子力安全委員長や閣僚らの反論を「躊躇(ちゅうちょ)」させたとの認識も示した。さらに「トップリーダーの強い自己主張は、物事を決断し実行するための効果という正の面、関係者を萎縮させるなど心理的抑制効果という負の面があった」と言及した。【笈田直樹】

 ◇民間事故調報告書の骨子
首相官邸の現場介入によって、1号機のベント(排気)などで無用の混乱を招き、事故の悪化リスクを高めた可能性。介入の背景は、マニュアルの想定不備や官邸の認識不足▽東電や保安院への不信感▽被害拡大の危機感▽菅直人前首相の政治手腕など

・01年の米同時多発テロを教訓にした新たな規制内容を未反映

・菅前首相は昨年3月22日、原子力委員会近藤駿介委員長に「最悪シナリオ」の想定を依頼

地震当時、原発構内の作業員は「この原発は終わった。東電は終わりだ」と顔面蒼白(そうはく)

・緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)の運用や結果の公表を巡り、文部科学省原子力安全委員会に役割分担させるなど責任回避を念頭にした組織防衛的な兆候が散見

・航空機モニタリングで、文科省防衛省の連携が不十分

 【ことば】福島原発事故独立検証委員会

 東京電力福島第1原発事故の原因などについて民間の立場で検証しようと、財団法人が設立した組織。通称・民間事故調。委員は元検事総長但木敬一弁護士ら民間人6人。研究者や弁護士ら約30人から成るワーキンググループがあり、菅直人前首相ら政治家や官僚ら300人余りから意見を聴取した。原発事故をめぐっては政府、国会、日本原子力学会なども独自に調査している。法律に基づいて設置された国会の事故調は、証人喚問といった強い権限がある。

毎日新聞 2012年2月27日 22時22分)