ドイツ人が放射能汚染に敏感な理由は?

ドイツは2011年に福島原発事故の後、2022年までに全ての原発を廃止するための一連の法案を閣議了承した。またフランスで再処理を終えた高濃度の放射性廃棄物の国内貯蔵に反値するなど、放射能に対してヨーロッパで最も敏感に反応する国であるが、これはすべてチャルノブイリ原発の影響を現実的に受けたことが最大の要因である。特に森の人であるドイツ人が、食卓に並ぶキノコや野イチゴ、鹿などが放射能汚染をされたことは、ドイツ人の心理に決定的な影響を与えたというのが実態である。

ドイツは原発を廃止する手続きを開始すると同時に、陸上・「海上風力発電の大幅拡大、送電網の拡充、天然ガスによる火力発電の能力増大などの具体的な措置を含んでいる。

「食料の放射能汚染・規制値をめぐりEUで激しい論争」によれば、ドイツ人が放射能汚染に神経質である理由は、1986年のチェルノブイリ原発事故の際に、原子炉から大気中に撒き散らされた放射性物質が、1600キロメートルも離れた南ドイツで土壌や牧草を汚染したという経験である。バイエルン州東部の森林地帯や、ドナウ川南部地域では、1平方メートルあたり最高10万ベクレルのセシウム137で汚染された場所が見つかったこともある。

放射性物質を含んだ空気がドイツ南部を通る時に雨が降ったために、バイエルン州では北部よりも放射能汚染が深刻になった。ちなみに1986年までに世界各地で行なわれた地上核実験の影響で、ドイツで観測されたセシウム137の量は1平方メートルあたり4000ベクレル。この数字と比べれば、チェルノブイリ事故による土壌汚染がいかに深刻だったかがわかるだろう。

 地上に降ったセシウム137は、キノコや野いちご、鹿や猪などを汚染した。ドイツでは秋に森で摘んだキノコを自宅で調理して食べる人が少なくない。また鹿料理のファンも多い。当時ミュンヘンに住んでいた私の友人は、「まさか1000キロ以上も離れた所からの放射能で、バイエルン州の食物が汚染されるとは思わなかった。かつて経験したことがない事態であり、当初は情報も不足したので非常に不安だった」と語る。放射能で汚染された牧草を乳牛が食べたために、粉ミルクがセシウムで汚染された例もある。エメリングという町では、食肉の汚染値を自分で測定し規制値以下であることを確認してから販売する商店主も現れた。

ミュンヘンの連邦放射線防護局(BFS)によると、当時この町では、ほうれん草から1キログラムあたり2万ベクレルのヨウ素131、7000ベクレルのセシウム137が見つかった。さらに牛乳1リットルあたり1000ベクレルのヨウ素131、300ベクレルのセシウム137が検出されたことがある。

 事故から19年経った2006年の時点でも、森林地帯のキノコから1キログラムあたり1000ベクレルのセシウム137が検出されている。


「食料の放射能汚染・規制値をめぐりEUで激しい論争」より
http://www.tkumagai.de/Diamond%20food%20text.html