臭いものには蓋をする「中国の高速鉄道大事故」が暗示する未来

7月23日、中国の浙江省温州市で起きた高速鉄道の衝突・脱線事故は、潜在化している中国の深刻な問題をあらためて浮き彫りにさせた。それにしても大変な驚きとショック。こうした重大な事故がもし中国の原発現場で起きたら、いったい当局はどういう対応をするのであろうか?

通常ならば事故をおこした車両は、どこの国でも事故究明のために丁寧に車両を保管し、長期間に渡って原因究明のために活用するものだが、中国当局脱線事故から一夜明けた早朝には、衝突した車両の運転席部分を現場に掘った大きな穴に埋めてしまったのである。まるで臭いものに蓋でもするかのように・・・・・。

朝日新聞社記者が、事故から半日後の24日の午前4時半過ぎに現場に入って一部始終を目撃していたと記事にしている。「空が明るくなり始めた午前6時ごろ、7台のショベルカーがやってきて、すぐ隣の野菜畑に大きな穴(深さ4−5メートル、幅20メートル)を掘り始め、7時半過ぎからショベルカーがアームを振りおろしては、大破した先頭車両を砕き始めたというのである。計器がつまっている運転席もすべて壊して、その残骸をまるで廃棄物のように穴の中に押しやってしまった」というのである。

これは事故究明を図るどころか、事故の完全な隠ぺいを図った態度であるのは疑いないし、中国国内でこうした当局の姿勢に多くの批判が殺到しているという。もしこれが、電車の事故ではなく、中国が現在、多数建設しているという100基の原発であったらいかがなものであろうか?おそらくは、中国で、重大な原発事故が起きても、それは四川省の大地震のときのように、すべてを隠蔽しながら国民にも外部にもなにも伝えないであろう。そして今でもいろいろ起きているだろう原発事故は一切報道してはいない。国家の極秘事項だからだ。


今度の列車事故の原因究明は、交通機関は、国民の日常的な重要な足であるから、国民の注視の中で、相当厳密な究明が測られていくであろうが、(おそらく今の中国政府の首脳も責任をとらねばならない事態に陥るであろう)、しかしこうした事故後の隠蔽作業を見ていると、これは炉心溶融を隠していた東京電力のやりかたと全く同じであり、究極的な責任を体制が取らねばならないということがよくわかる。

中国の原発事故で一番恐れのは、その放射能の拡散結果が、すぐに日本海を超えて黄砂のように日本列島に降り注ぐということである。そして黄河揚子江南シナ海の沿岸に建てられた多くの原発から、放射能を含んだ温排水が捨てられているということである。私は、原発には重大事故が必ず起きると、20年前からアジア地域に建てられた原発の行く末について”石棺”という物語を書いたことがある。沈黙の珊瑚礁という本である。これにはインドや中国などが、2050年ごろ、杜撰な原発の管理によって、人類の生存が不可能になるような重大事故が勃発する世界を描いている。3つの深刻な課題とは、(1)放射性廃棄物の処理の仕方を誤ること、(2)大地震や火山爆発など予期しない自然災害が勃発する(3)コンピューターの誤作動の多発によって、社会が崩壊していく世界である。

中国の高速鉄道網は、今や全世界でも最長の距離を誇るようになったが、こうした今回のように重大事故の直後から、事故原因を究明することなく(原因は、落雷で制御機能を失ったと当局は言っているが・・・)、表面的にはいかにも物事が平穏に片付いたように見せる姿勢こそ、大変深刻な問題を孕んでいる。こうしたやりかたが、いつもチベットウイグル南シナ海尖閣列島などの領有問題などでも痛烈に批判されているのである。


このままでは中国社会は、いずれ社会の炉心が溶融するような危機的な状況に陥るのは必然であろう。しかし私が望むことは、中国の人々は、これまで歴史の中で無数の危機を体験してきているだけに、かれら自身が社会のありかたや行くべき方向性を一番よく知っていると思うし、彼ら自身が主体になることである。そして民主主義を確立していくことである。政府の欺瞞的な原因究明のやりかたではなく、事実を着実に積み重ねる民間の真摯な態度が形成されていくことを祈っている。

いずれにしても、今回の事故に対して原因究明のために中国当局がなにをやるのか一挙手一投足を見守っていきたい。






「車両なぜ破壊・埋めた」 中国政府にネットで批判集中
「事故原因を隠蔽」 乗車拒否宣言も

中国浙江省温州市で23日起きた高速鉄道の衝突・脱線事故を受け、中国政府の鉄道行政に対する批判が高まっている。インターネット上では政府批判の書き込みがやまず、国家の威信をかけた高速鉄道網の整備計画は見直しを迫られるのが避けられそうにない。高速鉄道の利用を控える動きも広がっており、営業的にも苦しい状況に追い込まれている。中国鉄道省の王勇平報道官が24日深夜に現地で開いた記者会見では、ある“疑惑”に関する質問が注目を集めた。「当局はなぜ追突車両の最前部を破壊して埋めたのか」。王報道官は「救助作業を円滑に進めるためだ」と説明したが、国民の多くは納得していない。


 ネット上には「当局は事故原因を隠蔽しようとしている」との書き込みが殺到している。「落雷による設備の故障が原因」と繰り返す鉄道省には「人災を天災にすり替えようとしている」との批判も噴き出しており、王報道官は「車両から回収した運行記録装置の内容が判明すれば、ただちに公表する」と約束せざるを得なかった。日本円で年間10兆円近い投資を実施し、汚職の舞台にもなってきた鉄道省には、もともと国民の不満が強い。今年2月には当時の劉志軍・鉄道相が鉄道建設工事の入札を巡る汚職の疑いで解任された。今回の事故で、安全性を置き去りにした急ピッチでの高速鉄道網の整備計画に改めてメスが入るのは必至で、鉄道省は一段と厳しい立場に追い込まれている。

高速鉄道にはもう乗らない」。ネット上には高速鉄道への“乗車拒否”を宣言する書き込みもあふれている。6月末に開通したばかりの北京・上海高速鉄道(中国新幹線)は当初から空席が目立っており、今回の事故が追い打ちをかけるのは間違いない。国民の批判は、高速鉄道国威発揚に使ってきた胡錦濤国家主席温家宝首相ら指導部にも飛び火しかねず、中国政府は難しい対応を迫られている。

2011年7月25日  日本経済新聞






中国は日本の原発事故を忘れたのか?
建設計画が近く凍結解除へ―中国メディア
5月20日(金)


2011年5月17日、福島第1原発放射能漏れ事故により多くの国で原発見直し論が噴出する中、中国はこれと逆行するように原発支持の方向に傾き始めている。中国経営網が伝えた。以下はその内容。12日に開催された「第7回中国原子力国際大会」で、中国原子力産業協会の馮毅(フォン・イー)副秘書長は「凍結していた中国の原発建設計画を近く“解凍”する」と述べた。中国は2020年までに原発の総発電能力を7000万キロワットに引き上げるとしているが、この「7000万キロワット」という数字は計画推進の異常なまでの意欲を物語っている。

福島第1原発の事故後、中国も直ちに各原発の安全検査を実施し、政府も建設計画の見直しを関連部門に命じた。だが、問題は先頭に立っているのが原発の発展が自分たちの利益につながる「国家核安全局」という点だ。最終結果は推して知るべし。福島原発の危機は中国の中長期原発計画にほとんど影響を与えなかった。

原発建設を推進するもう1つの大きな存在は地方政府である。節電や省エネには消極的だが、原発建設に対する情熱は非常に強い。重慶当局などは「重慶の省エネ・排出削減のための重要な措置は原発の建設だ」と主張している。原発を1カ所建設すれば数百億元の投資、税収、雇用、GDPなど多くの経済的なプラス面がもたらされる。なんと効率の良いことか。地方政府が熱心にならないわけがないだろう。